まちづくりにおける
「私人間(しじんかん)の協定と行政法学」
~市民と行政が対等の立場で協力し合うまちづくりは可能か
法学部法律学科 西田 幸介(にしだ こうすけ) 教授

人の生活とともにある「行政法」
民法や刑法など日本の法律の中で、「行政法」というと、何となくイメージしにくい、内容がよくわからないという人が多いのではないでしょうか。
「日本には行政法という名前の法律は存在せず、行政に関わるさまざまな法を総称して行政法と言っているため、漠然としてわかりにくいのでしょう」というのは、行政法が専門で、本学公務員人材育成センター長も務める西田幸介法学部教授です。
行政法は、別掲の3分野に分けられます。「法律名など一見して難しい印象がありますが、実は行政法は私たちの生活に密着した問題を取り扱う、非常に身近な法律なのです。例えば、出生・死亡、転入・転出は行政に届けなければなりませんし、家を建てようと思えば建築基準法が、飲食店では食品衛生法が関わってきます。人の生活は行政法とともにあるといっても過言ではありません。そこが行政法を学ぶ面白さでもあります」。
こう話す西田教授は、行政法の観点から行政計画、土地法、アメリカの土地利用法などを研究しています。中でも力を入れているのが、まちづくりの領域における「私人間の協定と行政法学」の研究。その内容を西田教授の話をもとに見ていきましょう。
法律に基づく日本の「建築協定」
建築協定では神戸市が知られる。 上は神戸市が出している手引き書の表紙
まちづくりや住環境に関して、私人(個人や民間の法人)の間で協定が結ばれることがあります。よく知られるのが建築協定や緑地協定、景観協定ですが、これらは私人間で締結されるものですから、基本的に行政と私人の関係を捉える行政法の枠組みには入りません。しかし、例えば建築協定は公益を形成するものなので、それを行政法の枠組みの中でどう考えていくかというのが、「私人間の協定と行政法学」の研究です。
ある地域で建築協定を結ぼうとするとき、まず各地方自治体が建築協定を作ってよいという条例を作ります。その上で、建築基準法の定めに従い、敷地、構造、用途、意匠(デザイン)、建築設備などの事項について協定を結びます。
建築協定は、締結後に行政が認可して初めて効力を発しますが、その後は行政の手を離れます。しかし、街のルールとして建築協定は厳然として存在し続け、後からその街に住もうとする人も協定を守らなければなりません。これは、建築基準法に規定があって、協定締結時の当事者でなくても建築協定の拘束力が及ぶと定められているからです。これを「第三者効(だいさんしゃこう)」といいます。
- 行政法
- 行政組織法
国や自治体など行政の組織に関して規律する法(内閣法、国家行政組織法、地方自治法、国家公務員法、地方公務員法、警察法など)
行政作用法
行政と私人(個人や民間の法人)の法律関係を規律する法(行政手続法、警察官職務執行法、道路交通法、土地収用法、都市計画法、国税通則法、国税徴収法など)
行政救済法
行政によって私人の権利・利益が侵害されたときに救済するための法(国家賠償法、行政不服審査法、行政事件訴訟法など)
アメリカにおける行政抜きの「協定」
一方、アメリカでは住宅を所有している人たちが互いに協定を結んで団体を作り、その協定を区域内のルールとすることができます。ルールを執行するのはその団体で、家の増改築をするときは団体の許可が必要などの制限が設けられます。この協定も「私人間の協定」であるわけですが、日本のように行政が関わることはなく、法律による縛りがないため、家の用途からデザイン、色彩、高さ、材質にいたるまで、いろいろな規制が可能です。さらに、法律が特別に認めているわけではありませんが、第三者効を有するとされています。つまりアメリカでは、行政と関係なく、私人間の協定だけで日本の建築協定と同ようなことができ、協定そのものが第三者効の根拠になるのです。
再評価される建築協定
日本の場合、建築協定は時間が経つと守られなくなることが多く、後から家を買った人が増改築をしたくても協定がネックとなり、訴訟問題となるケースも見られます。さらに使い勝手が悪いこともあって建築協定自体は減ってきており、逆に、行政の主導による都市計画の中に「地区計画」というのを定めることができ、それがほぼ建築協定を代替するような仕組みになっています。しかし、行政法学の立場では、私人が公益を形成し地域のルールを作るという観点から、建築協定がここ15年くらいで再評価されています。これらの点を踏まえて西田教授は、日本での建築協定で行政の認可が必要という規定を外すことができるか、協定による規制が都市計画などの行政がする規制とどう関係するか、協定を行政法学においてどのように位置づけるべきか、などの研究を行い、論文発表を行っています。「日本では民間だけで地域ルールを運営するのがなかなか難しいので、行政のほうで、市民のそういう公益的な活動をサポートをする形に変わってきてくれるとうれしいですね。住民は建築協定を作って地域の適切なルールを決め、行政はその執行を手伝うという、市民と行政が対等な立場で協力し合ってまちづくりを進めるというイメージです。それが行政法の観点から可能なのかどうか、今後も研究を続けていきたいと思っています」と西田教授は話していました。
公務員人材育成センターのガイダンスにて
公務員、法曹志望者を支援
公務人材育成センター
最後に、西田教授が長を務める公務員人材育成センターを紹介しましょう。本学では従来から公務員志望者が多く、大学としてきちんとした形で支援をしていこうということで発足しました。センターでは、公務員と法曹を公務人材の中核に位置づけ、公務員講座、法職講座の2講座を開講、いずれも学習進度に応じたきめ細かな指導を特色としています。受講料も専門学校などに比べて割安で両講座とも予想以上の受講生が集まり、2013年6月11日現在で、公務員講座では1229人(12年度は1157人)、法職講座では42人が学んでいます。
- 法学部法律学科 西田 幸介(にしだ こうすけ)
法学部法律学科教授。
1993年法政大学第二高等学校卒業。
1997年法政大学法学部法律学科卒業。
2003年同大学院社会科学研究科法律学専攻博士後期課程満期退学。
大阪経済法科大学、龍谷大学を経て2010年に法政大学法学部准教授。翌年より現職。2011年より公務人材育成センター副センター長、2013年より同センター長を務める。
著書に『まちづくり・環境行政の法的課題』(共著、日本評論社、2007年)、世界の公私協働—制度と理論』(共著、日本評論社、2012年)など
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