電磁波~見えない波を追いかけて~
理工学部電気電子工学科 柴山 純 教授
柴山 純教授
「このアンテナは法政大学工学部中野久松教授の研究成果を基に商品化致しました」。衛星放送が普及し始め、お皿形のアンテナをちらほら見かけるようになった昭和の終わり、電器店のアンテナの裏面に、そう小さく記されているのを見つけたのは高校生のときでした。「法政にはアンテナを研究している先生がいるんだ」。法政大学との最初の出合いでした。
その後、縁あって本学に入学。3年次から光通信を研究されていた山内潤治教授のゼミに参加しました。それ以来、「見えない波」を追いかけ続けることになります。
見えない波
日常生活に不可欠なスマートフォンやインターネット。スマートフォンでは「電波」で、インターネットの基幹部分では「光波」で情報のやりとりをします。実は電波や光波の正体は同じであり、目に見えない波である「電磁波」と呼ばれるものです。電磁波は空間や伝送路に伝わる電気と磁気(あるいは電界と磁界)の高速な振動です。ちなみに、私たちが目で見ているものは物体からの直接あるいは反射光であり、「可視光」と呼ばれる、唯一見える電磁波です。光通信に用いる光波は可視光よりも波長が長く、目に見えません。
電磁波の見える化
スマートフォン内部のアンテナや、光通信の回路を設計するためには、電磁波がどのように進んでいくかを詳細に調べる必要があります。では、どのように見えない電磁波の様子を知るのでしょうか。そのためには、「マクスウェルの方程式」と呼ばれる、電界と磁界の振る舞い--電界と磁界がお互いを作り合い、鎖のように波が進んでいく--を記述する式を使います。アンテナや光回路の設計は、突き詰めればマクスウェルの方程式を解くことに帰着します。
マクスウェルの方程式をコンピューターで解くためのシンプルな計算方法として有限差分時間領域(FDTD)法があります。1990年代に入りコンピューターが高性能化していくのに伴い、広く用いられる汎用的な方法になりました。FDTD法を使えば、ディスプレー上でいとも簡単に電磁波の見える化を達成できます。しかし、FDTD法には避けられない制約がありました。2004年当時、助手だった私は山内教授のゼミの大学院生と共に、金属表面に伝わる光波の一種であるプラズマ波に関する研究を行っていました。光波を小さな所に閉じ込めようとしても、その大きさは波長程度にしかできず、これにより光回路の大きさが決まります。しかし、金属表面に伝わるプラズマ波を用いると、波長よりも小さな場所に光を閉じ込めることができます。従来の光回路の大きさをずっと小さくできる可能性を秘めています。
FDTD法を用いて、大学院生と共にプラズマ波を計算するプログラムを作りました。ところが実際にパソコンで計算してみると、小さなモデルでも数時間、大きなモデルを解こうものなら数日から1週間も計算を続けなければなりませんでした。これは計算の際、時間ステップ幅を大きくできないという、FDTD法の不可避な制約から生じていました。
法政発の新しい計算方法
計算が終わるまで指をくわえて待つわけにもいかず、解決策を求めました。少しさかのぼる1999年、富士通の並木武文氏とカナダのダルハウジー大学のグループがそれぞれに、時間ステップの制約を除去した新しいFDTD法を開発していました。それは、空間の計算を交互方向に行う少し複雑な方法でした。「この方法を使えば計算時間を短縮できる」。早速大学院生の村木弘法君(現NEC)と検討を始めました。彼の頑張りにより、程なくしてプログラムが出来上がりました。
プラズマ波を計算しようと準備をしていると、ふと「マクスウェルの方程式を交互方向ではなくて一方向に解いたらどうなるのだろう?」と疑問が湧きました。交互方向も一方向の計算方法も、山内教授の大学院の授業で学んでいました。ノートを開いて一方向計算の考え方を取り入れながらマクスウェルの方程式を展開。すると驚いたことに、交互方向では六つの式を解かねばならない一方で、一方向では四つの式のみで計算が可能だったのです。
一方向のシンプルな計算を直ちに実行しました。実は一方向計算の正確さは一般に交互方向よりも若干劣ることが分かっており、私の予想では、厳しい条件下では同じ結果は望めないだろう、というものでした。
「条件を厳しくしても同じ結果が出ます」。あの陽気な村木君が神妙な顔をしてデータを持ってきたのです。確かに結果は一致しており、「本当に間違いないか?」と何度も確認しました。「もう誰かが検討しているのでは?」とGoogleで調べてみると、1件もヒットしません。早速論文を執筆、英国の権威ある速報誌である『Electronics Letters』に投稿したところ、幸運にも採択されました。2005年のことでした。
この新しい計算方法を、局所一次元FDTD法(LOD-FDTD法)と命名。LOD-FDTD法を用いると、プラズマ波の計算時間が半分から10分の1程度に短縮され、研究がはかどるようになりました。この方法の効率の良さが次第に認識され、世界中の研究者によって改良・拡張が進められるようになりました。今では国内外の教科書にもたびたび取り上げられています。現在私はLODFDTD法を用いて、電波と光波の中間に存在する「テラヘルツ波」と呼ばれる電磁波=見えない波を扱ったさまざまな機能素子を研究しています。
見えない波を追いかけて
高校時代、ふと手にしたアンテナが私をこんなふうに導いてくれるとは、当時は思いもしませんでした。後に、そのアンテナの受信素子は、恩師である山内教授が博士課程に在学中、中野久松教授(現名誉教授)のご指導の下、研究されていたものであったことを知りました。それから約30年、両先生は現在も研究成果を生み出し続けています。本学の伝統ある電磁波系の研究に、小さくとも何か積み上げていけるよう、私自身も研鑽(さん)していきたいと思っています。そして、受け継いできたものを次世代の学生に伝えつつ、「見えない波」を追いかける醍醐味を学生と共有していきたいと思っています。
- 理工学部電気電子工学科 柴山 純
Jun Shibayama
専門は機能素子工学。1969年千葉県柏市生まれ。1993年法政大学工学部電気工学科電気電子専攻卒業。1995年同大大学院電気工学専攻修士課程修了。同年、古河電気工業株式会社に入社。光技術研究所でインターフェースケーブル、光・金属複合ケーブルの研究開発に携わる。1999年より法政大学工学部助手。2001年に光導波路の数値解析の研究で博士号(工学)を取得。2009年法政大学理工学部専任講師、2011年同准教授となり、2015年より現職。2013年電子情報通信学会よりエレクトロニクスシミュレーション研究会優秀論文発表賞(一般部門)、2017年米国電気電子学会(IEEE)よりUlrich L. Rohde Innovative Conference Paper Award on Computational Techniques in Electromagneticsを受賞。
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