企業のグローバル化も支える「配る」マネジメント
経営大学院(専門職大学院 イノベーション・マネジメント研究科 イノベーション・マネジメント専攻) 髙木晴夫(たかぎはるお) 教授
髙木晴夫教授
「優れたマネジャーには潜在的に並はずれた人間力がある、と考えているビジネスパーソンは意外に多い。しかし、マネジメントは専門能力。たった一つの基本を踏まえるだけで誰でも向上させることができるのです」と語るのは、組織行動学が専門の髙木晴夫教授。2013年に著書『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』でまとめたマネジメント研究を、最新の脳科学の知見を加えてさらに進展させています。
最新の脳科学にも現れた「配る」マネジメントの有効性
マネジメントに必要なたった一つの基本とは、コミュニケーション。「重要なのは上司が部下に"配る"4つの情報です」と髙木教授は話します。
・仕事を取り巻く環境はどんな状況で、その仕事がどんな意味を持つのか
・なぜその仕事を担当するのか
・その仕事はどう評価されるのか
・上司(自分)は何を考えているのか
「私が提唱してきたこの4点は、いわゆる部下が仕事に"手応えを感じる"状態を作り出すメカニズムですが、脳科学を用いることでより効果的にその状態に導けるようになるのです。脳科学者の協力を得た研究で、"配る"情報と部下が手ごたえを感じる動機づけとの関係が明らかになってきました」
fMRI(機能性MRI)と呼ばれる脳の血流の変化から脳機能を検査・検証した結果、脳には4つの認知機能があることがわかったと言います。
「1つ目は、外界とそこに置かれている自分の状況をモデルとして把握する写像機能。2つ目は、保持(把握)した写像をアニメのように仮説検証として動かすシミュレーション機能。3つ目は、実際に行動に移した時に返ってきた結果を、保持していた写像やシミュレーションと照らし合わせて修正する機能。そして4つ目が、これら3つの機能をモニタリングする機能です。それぞれの機能は脳の特定部位に対応しており、モニタリング機能は『TPJ』(側頭葉頭頂葉接合部)と呼ばれる部位。このTPJがポイントになります。
モニタリングの結果"うまくいった"と判断されることで快楽物質であるドーパミンが分泌され、人間が再び一連の行動を取ろうとするサイクルに導ける。マネジャーは部下をモニタリングすることで配るべき適切な情報を選択できるようになるとともに、情報を配ったらどうなるかをシミュレーションし、実際に配った結果を元にシミュレーションを修正するというプロセスをTPJが把握することで、部下が手応えを得るサイクルを意識的に作り出せるようになるからです」
著書の一部。専門的内容を一般のビジネスパーソンにもわかりやすく執筆された著書も多数ある
脳科学を用いたマネジメントについて理にかなった整理をしながらも「ただ前提として、部下へ効果的に情報を配るためにはマネジャーが常に情報収集を怠ってはならないことは言うまでもありません」と髙木教授は続けます。
「部下が欲しい情報は、部下が得にくい情報とも言える。直属の上司のみならず、経営層や社外の関係者にも積極的にアプローチし、市場動向や会社の方向性、組織内の各人が生み出す気持ちの情報も獲ってくる姿勢が求められます」
著書『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』では、事例研究を含んだ具体的なマネジメント手法も紹介しています。
ハーバード・ビジネス・スクール修了を記念して購入した椅子。現在も愛用している
組織は人でできている
専門の組織行動学研究において巧みに脳科学を取り入れている髙木教授。その契機は、応用数学を専攻していた慶應義塾大学在学時にさかのぼります。
「学生相談室で学部生としてカウンセリングのお手伝いをしていたことから臨床心理学に親しむようになり、脳科学や精神医療の専門書を読んで大学院時代に研究に組み込むようになりました。
学問として本格的に学んだのは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)留学中ですね。近年でこそ経営学において人間心理の必要性が叫ばれるようになりましたが、HBSでは創設当時から重要視し、精神医学や臨床心理など専門的な心理学の知識を取り込んでいます。組織は人が人を動かすことで成り立っていることを考えれば心理学的要素は必然です」
人の感情も"気持ち情報"として分析し、著書や講演などで科学的に活用事例を紹介。社会変化がますます加速する現代だからこそその活用意義は増している、と髙木教授は強調します。
「情報化やグローバル化などによる社会変化に伴って、企業組織も急速な改革が求められる場面が多くなっています。意思決定に時間がかかるとされる日本型組織形態の弱点を補う上でも、円滑な意思決定を促す組織形成は有効だと考えています」
白熱した授業が繰り広げられている髙木教授の授業
日本の経営技術を集結したグローバルMBA
先駆的研究で日本初のビジネス・スクール設立にも尽力してきた髙木教授。その手腕を生かし、現在は国内初となる日本型経営を専門的に英語で学ぶ「グローバルMBA」(本学経営大学院)の9月開設に向けて奔走しています。
「これまで国内の各ビジネス・スクールで用いられてきた事例研究だけではなく、日本型企業の経営を体系的に学ぶ独自のカリキュラムを組んだプログラムになっていて、今後は多様な日本の組織----製造企業だけでなく、サービス企業、医療福祉、地方自治などの分野の組織とも連携し、留学生用のインターンシッププログラムも設けていきたいと考えています。
一部の学者からは日本の国力は落ちていると言われていますが、そうでしょうか。リーマン・ショックを乗り越え、日本企業が順調に回復し、日本が安定した国であることを見せているのは、揺るがない経営基盤があるからで、アジアやアフリカの方々にとっては特に価値を感じていただける内容だと感じています。
世界言語とも言われる英語によって学ぶプログラムですから、留学生の方がグローバルMBAで学習した成果を母国に持ち帰って現場で生かしてくれれば、日本経営の在り方が世界に広がり、国内企業のグローバル化を後押しすることにもつながります」
これまではあまりの研究の多忙さから趣味は愛車・Audi TTを運転するくらいという髙木教授。「引退したら大急ぎでパイプオルガンの練習を始めて孫の結婚式に間に合わせたい」と思いをはせます。
法政大学 経営大学院(専門職大学院 イノベーション・マネジメント研究科 イノベーション・マネジメント専攻)
「法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科に全て英語で受講できるグローバルMBAプログラム(GMBA)を開設」(2015年3月26日「ニュース」掲載)
Hosei Business School of Inovation Management GLOBAL MBA PROGRAM
- 経営大学院(専門職大学院 イノベーション・マネジメント研究科 イノベーション・マネジメント専攻) 髙木晴夫(たかぎはるお)
1973年慶應義塾大学工学部管理工学科卒業、1975年同大学大学院工学研究科修士課程修了、1978年同博士課程単位取得退学。1984年ハーバード大学ビジネス・スクール博士課程修了、同大学より経営学博士号取得。1978年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助手、1985年同大学助教授、1994年同大学教授。2014年より現職。専門は組織行動学。
著書に『プロフェッショナルマネジャーの仕事はたった1つ』(かんき出版)、『新版 組織行動のマネジメント』(翻訳、ダイヤモンド社)、『組織能力のハイブリッド戦略』(ダイヤモンド社)、『トヨタはどうやってレクサスを創ったのか—“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力』(ダイヤモンド社)など多数。
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