広告論・ブランド論を通して
現代社会の中で「どう生きるべきか」を知る
社会学部メディア社会学科 青木 貞茂(あおきさだしげ) 教授
青木 貞茂教授
文化表現物として広告を捉える
研究のテーマは「広告を、人々を楽しませ世の中を面白くする映画やドラマなどと同様の"文化表現物"として捉え、その意味を記号論的に読み解くことです」と話す青木貞茂教授の専門は、長年勤務した広告会社での経験知を生かした広告論とブランド論。広告は同時に、社会や人々に新しい生活文化のありかたを提案する側面もあるため、そうした視点も踏まえながら、「広告・消費文化論」と「広告・PR論」の授業を担当。また最近では、広告論とブランド論の延長として「ゆるキャラ」に象徴されるキャラクター論にも踏み込み、研究領域を拡張しています。
広告とコンテンツの一体化は江戸時代に確立していた
広告消費文化論の研究は、江戸時代にまでさかのぼります。実は、広告をコンテンツとして楽しむすべを日本人は古くから身に付けていました。江戸時代の戯作者・式亭三馬は、自身が開発した化粧水「江戸の水」を自作の『江戸水幸噺』の中でさりげなくPRしています。自分がプロデュースした商品の広告のために物語( コンテンツ)を作ってしまったのです。三馬は、地方の人々にとって「江戸」自体がブランドであることを見抜き、しゃれたパッケージに包んだ上、物語の中で主人公に語らせることによりブランド価値を高めました。これは現在のプロダクト・プレイスメント( ドラマや映画内で俳優が特定の商品を身に付けPRする広告手法)と同じものですが、日本ではすでに江戸時代にこうした手法が成立していたのです。
しかし、どのように優れた手法を用いたとしても、広告が幅広く正確に伝達されるためには、一般大衆にそれを受け入れるだけの素養がなければなりません。それを支えたのが、当時の日本の庶民の識字率の高さでした。同時期の英国ロンドンの下層階級の識字率が約1割程度だったのに比べ、江戸の庶民では約7割といわれていて、広告の発する意味やメッセージを理解するための素地があったとみられます。そのため、庶民でも優れた広告を理解し、享受することができたのです。
私たちの社会では、ビジネスはビジネス、教育は教育、広告は広告という分断した枠組みで見てしまいがちですが、実はそれらはすべて関連しているのだということを「広告・消費文化論」で教えています。

キャラクターは伝えたいことを瞬時に伝えることができる
インターネットで見る広告は、以前のメッセージ性のある広告とは異なり、「安い!」「他と比べてここが良い」というはっきりと分かりやすい内容のみを伝えるようになり、受け手も複雑で多義的なものを受容しなくなってきました。そのような中登場したのが、「ゆるキャラ」と呼ばれる、キャラクター達です。多くが企業や自治体のシンボルで、特徴のある姿をしていますが、広告として非常に優れている一面を持っています。
現在の日本は、価値観が多様化しており、知識や常識、コンテクストの共有が困難になりつつあります。こうした社会は、文化としての広告にとっては危機的状況ですが、だからこそキャラクターが有効になっているという一面があります。未開社会や古代の部族社会の時代には、他者と識別するためにトーテム( 特定の集団や人物、部族や血縁に結び付けられた動物や植物などの象徴のこと)を明確化することで自分たちが社会において何者なのかを確定していました。このトーテムの役割を、こんにち、キャラクターが担っているのです。企業や自治体そのものには象徴となるような「顔」がありません。大手企業は予算があるので有名なタレントや既存のキャラクターを広告に利用することも可能ですが、問題は地方の自治体です。コストをかけずに自分たちをブランド化する手法は何かと模索する中でたどり着いたのが、ゆるキャラでした。
さらにキャラクターが優れているのは、あらゆる年代、階層の人々が、それらが発している感情やメッセージを瞬時に理解できる点です。それまで、自治体は地域の特産品や名所を言語で発信していましたが、ゆるキャラに特産品がデザインされていれば、説明せずに瞬時に伝達することができます。言語よりも非言語的なコミュニケーションのほうが伝達速度が早く、現代の社会では、より重要視されます。
日本はもとより、大人と子どもの境界が、欧米に比較すると曖昧です。かつて日本を訪れた外国人が、大人が子どもと共に親密に遊んでいる様子を見て、驚いたと言います。この文化的な伝統により、子どもだけでなく、大人でもキャラクターグッズを持つことに寛容な価値観ができあがり、日本のキャラクター人気の要因の一つとなっているのです。
課題解決のために使いこなせる〈広告知〉を伝えたい
私は、授業を通じて、広告にまつわる知識・知恵・知能・知性、すなわち〈広告知〉というものを学生に伝えたいと考えています。知というものは、ただ理解するだけではなく、課題解決のために有効に使いこなさなければ意味がないというのが私の考え方です。理論と実践をつなぐ知識、いわば実社会で使いこなせるメタ知識を学ぶことが、社会に出てからの企画力、プレゼンテーション力などにつながります。そして、競争社会の中で自分のキャリアを積み上げながら結果を残していくためには、自己をブランド化、キャラクター化して「私はこういう人間です」ということをメッセージする必要があります。
これからの日本人は、もっとしたたかにならなければなりません。表面はゆるキャラ。しかし、裏側ではしっかりモードチェンジをして、欧米のコードやルールを熟知した上で我が道を行くのが理想的ではないでしょうか。広告の世界には、そのための多くのヒントが隠されているのです。
- 社会学部メディア社会学科 青木 貞茂(あおきさだしげ)
1956年長野生まれ。1979年立教大学経済学部卒業後、広告会社勤務のかたわら法政大学非常勤講師、早稲田大学大学院商学研究科客員助教授、東京大学大学院情報学環非常勤講師、同志社大学社会学部教授などを歴任。2013年4月より現職。日本広告学会理事。専門は、広告論、ブランド論。著書に『文脈 創造のマーケティング』( 日本経済新聞社)『文化の力』(NTT出版)『キャラクター・パワー』(NHK出版新書)など。
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